※この記事は2021年時点に書かれたものです。
CCCの事業責任者にインタビューをする「#事業責任者に聞いてみた」。
今回は、蔦屋書店カンパニー社長執行役員の梅谷さんのインタビューをお届けします!
今回の事業責任者
梅谷 知宏 さん
1991年カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下、CCC)入社。直営店舗での店長やフランチャイズ部門の支店長を経験し、1999年北海道営業部配属。2013年函館 蔦屋書店株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。同年、「函館 蔦屋書店」をオープンさせる。現在は、CCC蔦屋書店カンパニー社長執行役員。
CCCの歴史
――CCCにおけるプラットフォーム事業の変革を教えてください。
CCCは、「カルチュア・インフラを、つくっていくカンパニー」をミッションに掲げています。時代とともに変化する生活様式に応じて、人と世の中に新しいライフスタイルを提案してきました。そのミッションを実現するために、僕たちは3つの仕事をしています。お客さまとの直接の接点となるプラットフォーム、そこから得られたデータを活用したデータベースマーケティング、そして、プラットフォーム上で実際に提案するライフスタイルコンテンツです。
僕たちが企画してきたプラットフォームは、1983年の「TSUTAYA」から始まり、2003年に誕生した「Tカード」、そしてその後もTSUTAYAをリブランディングした「蔦屋書店」や商業施設の「T-SITE」、さらに「図書館」や「蔦屋家電」など、時代の変化、お客さまの変化に合わせて企画し、イノベーションすることで、生活提案を行ってきました。
プラットフォーム事業の取り組み
――蔦屋書店カンパニーのビジョンを教えてください。
現在、蔦屋書店カンパニーのビジョンは「世界一インスパイアされる空間を、世界に3,000ヵ所作り、結果として、企画人材ネットワークを構築すること」です。蔦屋書店の責任者になって最初にやったことは、「何のためにするのか」「何をするのか」を改めて仲間たちと詰めていくことでした。
蔦屋書店カンパニーの「何のためにするのか」は、「企画人材ネットワークを構築する」ためとしました。日本や世界各地にいる、世の中を面白くするような”企画人材“を繋げることで、さらにハッピーが生まれる状態にすることこそが、CCCのミッションである「カルチュア・インフラをつくっていくカンパニー」に繋がると考えたからです。
そのための手段として「何をするのか」という問いには、「世界一インスパイアされる空間を世界に3,000ヵ所作る」というアクションを置きました。仲間たちと話し合う中で、僕たちが世の中に提供していこうとしている価値を突き詰めていくと、「インスパイアされる空間を提供すること」という結論に至りました。我々の考える”インスパイア”とは、「自分の未来が見えてワクワクすること」です。これからの時代を見据えて僕たちがお客さまに提供すべき価値を考えた時に、ここに来れば何かがあると思ってもらえる、来るだけでワクワクするような空間が、一つの答えではないかと思ったんです。
皆さんもこれまでの経験の中で、そこに行っただけでワクワクするような空間が、きっとあったと思います。そんな空間を、世界中に3,000ヵ所作りたいと考えています。価値観が多様化する中で進む「個の時代」においても、来てくれたお客さまに新しい発想やアイデアが浮かんだり、人との繋がりによって発想を広げていったりできるような、そんなプラットフォームでありたいと思っています。
――そのために具体的に取り組んでいることは何ですか?
僕らは先ほど述べたビジョンを、本をはじめとして、カフェやラウンジ、文具雑貨などの各アイテムを複合した生活提案や空間ビジネスによって広げていきます。その中でも特に力を入れている3つの取り組みを紹介します。
まず1つめは、「本」への取り組みです。僕たちは「書店ゼロの街をなくす」をスローガンに掲げています。そのためには書店や出版業界の利益を創出する必要があり、産業構造を変えていかなければなりません。リアルの書店にしかできない品揃えや提案で売上を上げることに加え、AIなどのデジタル技術を駆使して発注精度を上げて、業界の課題となっている返品率を下げ、無駄な物流コストを削減し、利益率を改善する仕組みづくりに取り組んでいます。さらに、CCCが持つデータと出版社が持つデータを掛け合わせて、出版業界の様々な課題の解決に取り組んでいきます。
2つめは、公共事業です。蔦屋書店カンパニーでは図書館や公民館のような市民活動拠点の運営をしています。公共事業におけるプラットフォームも、目指すところはその地域が活性化することです。そのためにお客さまがインスパイアされるような空間を提供することは、本質的には蔦屋書店と同じです。ここを、地域にお住まいの方、行政の方たちとしっかりタッグを組んで進めていきたいと思っています。
そして3つめは、海外での蔦屋書店の出店です。すでに中国や台湾で、蔦屋書店やTSUTAYA BOOKSTOREを現地のパートナー企業様にフランチャイズ加盟いただき、一緒に出店を進めています。現在は日本の文化、ライフスタイルコンテンツを海外に伝えるという役割を担っていますが、ゆくゆくは海外の良い文化を吸収し、日本に伝えることで、文化の橋渡しをする役割も担っていきたいと考えています。
任された時が一番やりがいを感じる
――梅谷さんが働いている中でやりがいを感じる瞬間を教えてください。
CCCには自由度の高い仕事を任せていく文化があります。やっぱり、僕自身も任された時にやりがいを感じる。任されたからには約束を守らないといけないし、もちろん大変ですが、自分事として責任を持って取り組むことができる。特に、自分からやりたいと発信して、それを任された時が一番かなと思います。2013年に「函館 蔦屋書店」を作る時も、自分で創業者である増田社長に提案をしたところ、「だったら会社を作って自分でやってみては」と言われて、自分ごととして好きな仲間と一緒に取り組みましたし、そんな思い入れのあるお店でもあったので、いまだに函館の売上は厳しい目でチェックしています(笑)。
ビジョンを持って挑戦していく
――働いている中で大切にしていることは何ですか?
昔から常に考えているのが、「自分より若い人たちがどうしたら成長してくれるか」です。先ほど自分は任された時にやりがいを感じるという話をしましたが、僕から若手メンバーにも積極的に任せるようにしています。そして任せた以上、僕は基本的には細かいことを口酸っぱくは言わない。なぜなら任せた相手の方が、そのことに対するたくさんの知識や経験がついているから。大きなゴールや本当に気になったことだけを伝えるようにしています。
あとは、薩摩藩の評価基準というものを、僕も考え方として取り入れています。薩摩藩の人々は日本を変えた人たちでもあるからです。薩摩藩の評価基準は5つあり、上から、 ①何かに挑戦し、成功した者 ②何かに挑戦し、失敗した者 ③自ら挑戦しなかったが、挑戦した人の手助けをした者 ④何もしなかった者 ⑤何もせず批判だけしている者。本当に失敗しても良いから挑戦してほしいと思っているし、自ら挑戦するのが難しい場面なら、挑戦する人を助けられることを考えてほしいなと思っています。この考えに基づいて、成否に左右されず、挑戦した人はしっかりと評価しています。
――そんな若い人たちに伝えたいことはありますか?
結果も人も、なかなか思った通りにならないことが多いです。そこで「ああ、うまくいかないな」と思い始めると、どんどん良くない方に進んでしまう。なので日頃から、「うまくいかない、自分の思い通りにならないのが当たり前だ」と思うようにしています。そう思いながらも、良い結果に向けて全力で努力すれば、その中でうまくいった時はすごく喜べるし、ラッキーだなと思えます。
今の蔦屋書店カンパニーもうまくいかないことがたくさんあって、みんなでいつも、「どうやったらうまくいくのか」と悩みながら取り組んでいるんですよね。仕事って周りの環境や色んな人が絡みあって成り立っていて、自分の想いや自分の行動だけでは完結しないものです。だから学生の皆さんにも「仕事において最初から100点満点を目指そうとは思わないほうが良い。」と伝えたい。
一方で大切にしてほしいのは、「何のために生きていきたいのか」「なんでこの会社に入ったのか」「何をしたいのか」といった自分自身のビジョン・ミッションを明確に持つことだと思います。僕は30年間TSUTAYAの仕事をやってきました。ただ業務をこなすのではなく、自分自身のビジョン・ミッションを軸に、常に意志を持って考えながら、良い時も悪い時もTSUTAYAに向き合い続けてきたことで、様々なことが見えるようになりました。真摯に継続的に取り組むことで、身についてくる力は確実にある。それはその仕事を処理するだけの力ではなく、どこに行っても通用するような「自分力」とも言えるものだと思います。みんなにも「自分力」を上げて自信をつけてほしいし、うちの会社の中の仕事だけではなく、どこに行っても活躍できるような人になってほしいなと思っています。
18歳の夢が、全国各地で叶う
――梅谷さんの夢を教えてください。
学生の頃「将来どうしようかな」と考えた時に、自分の友だちや仲間、好きな人が、楽しく過ごせる場所や空間を作りたいなと思い、面白そうだと直感的に思ったCCCに入社しました。入社してTSUTAYAで働いているうちに、「当時思い描いていたことを叶えられる場がTSUTAYAなんじゃないか」と思うようになりました。僕が働いていたTSUTAYAは自分の家の近くではなかったのですが、もし家の近くにあったら、友だちや仲間が映画や音楽や本を探しに来てくれる、そんなワクワクする場所になっていたんだろうなと。そんな想いを持って函館に「函館 蔦屋書店」を作りました。
そして50歳を超えた今、18歳の時に思い描いていた夢を、日本全国だけでなく海外も含めて、実際に形にしている。仲間もたくさん増えました。自分の友達や仲間は今、北海道にも九州にも中国にもいます。昔は生まれ育った奈良県にしかいなかったけど(笑)。さらに、そんな各地の仲間たちが、また他の仲間を各地域で楽しませてくれている。これからもそんな大好きな仲間たちと一緒に、みんなが楽しく過ごせる場所を作っていきたいと思っています。